親権とは
親権とは、親が未成年者である子を監護・教育し、子の財産を管理する権利・義務をいう。自らの子を監護・教育することは、親の権利であると同時に、義務としての側面をも合わせ持つ(820条参照)。
子が親権に服するのは、未成年の間だけである(818条1項)。
親権者
親権者は、次のようにして決定する。
父母が婚姻中の場合
共同親権の原則
父母が婚姻中である場合、父母が共同して親権を行使する(818条3項本文)。
父母の一方が親権を喪失している、成年被後見人・被保佐人である、行方不明または服役中であるなどの理由で親権を行うことができないときは、他方が単独で親権を行使する(同条ただし書)。
父母が離婚・死亡したとき
父母が離婚したときは、父母の一方が親権者となる。協議離婚の場合は父母の協議(または審判)で、裁判離婚の場合は裁判所が父母の一方を親権者と定める(819条1項・2項・5項)*。
*離婚の際、親権者とは別に子の監護者を定めることも可能である(766条)
父母の一方が死亡したときは、他方が単独で親権者となる。
父母が婚姻していない場合
嫡出でない子の親権者
嫡出でない子は、母が単独で親権者となる。もっとも、父が認知した後に、父母の協議(または審判)で父を親権者と定めることができる(819条4項・5項)。
父の認知後に父母が婚姻したときは、子は準正嫡出子となり、当然に父母の共同親権に服する(818条1項)。
出生前に離婚したときの親権者
父母が子の出生前に離婚していた場合、母が単独で親権者となる。ただし、子の出生後に、父母の協議(または審判)で父を親権者と定めることができる(同条3項・5項)。
養子の場合
養親が親権者
子が養子となった場合、養親が親権者となる(818条2項)。養親が夫婦であるときは共同で親権を行い、一方が死亡したときは他方が単独で親権者となる。
もっとも、養親が養子の実親の配偶者であるとき(配偶者の連れ子との養子縁組)は、実親との共同生活は維持されるので、実親と養親との共同親権となる。
養父母がともに死亡した場合、養子縁組はいまだ継続しているので、実親の親権は回復しない(通説)*。この場合、親権を行う者がいないので、未成年後見が開始する(838条1項)。
*死後離縁後は、実親の親権回復が認められる。
離縁の場合
養子が未成年のうちに養父母双方と離縁する場合、養子の実父母の親権が回復する。実父母が離婚していたときは、その一方を離縁後の親権者として定める*。
*養子が15歳未満であった場合、離縁後に親権者となるべき者が養子に代わって離縁の手続を行う(811条・815条)。
親が未成年者などである場合
未成年者は、親権を行うことができない。
親が未成年者である場合、その親の親権者または未成年後見人が代わって親権を行使する(833条・867条1項)。
また、成年被後見人・被保佐人も、親権を行使することができない。行為能力が制限された者は、子の監護や財産管理を適切に行うことができないからである。(被補助人については見解が分かれる。)
親権者の変更
父母の一方が単独で親権を行使している場合に、子の利益のため必要があるときは、家庭裁判所は子の親族*の請求にもとづいて親権者を他の一方に変更することができる(819条6項)。
*子本人は、親権者の変更を申し立てることはできない。なお、親権者変更の審判手続では、15歳以上の子の陳述を聴かなければならない。
なお、子の利益のために保護者を変更するための方法としては、親権者変更の申立てのほかに、未成年後見を開始するために(838条1項)親権喪失などの審判の申立て(834条)をする方法もある。
親権の内容
親権の内容は、身上監護権と財産管理権に大きく分けることができる。
身上監護権
親権者は、子の利益のために子の監護・教育をする権利を有し義務を負う(820条)。
その具体的な内容として、民法は、①居所指定権、②懲戒権、③職業許可権を定めている。
もっとも、これらの権能は、子の監護教育に必要な範囲内で行使しうるにすぎず、適切に行使されない場合には親権者変更や親権喪失・親権停止の原因となりうる。
居所指定権
親権者は、子の居所を指定することができる(821条)。
子が親権者と同居せずに第三者のもとに不法に抑留されている場合、子に対する親権行使の妨害であるとして、子の引渡しを請求することができる(親権行使を妨害しないことを求める妨害排除請求、最判昭35.3.15)。
もっとも、子がその自由意思で居所指定にしたがわずに第三者(祖父母など)と同居しているときは、子に強制する手段はない。
懲戒権
親権者は、監護教育に必要な範囲内でその子を懲戒することができる(822条)。もっとも、行き過ぎた躾は、児童虐待となりうる。
職業許可権
親権者は、子が職業を営むこと(他人に雇われることを含む)について、許可(同意のこと)する権限を持つ(823条1項)。許可の取消しや制限も可能である(同条2項)。6条も参照。
財産管理権
親権者は、子の財産を管理する(824条)。
親権者の注意義務
管理権を行使する際は、自己のためにするのと同一の注意義務を負う(827条)。親であることから、未成年後見人が負う「善良なる管理者の注意」義務(869条・644条)よりも軽減されている。
財産の管理の計算
子が成年に達したときは、親権者は遅滞なく管理の計算をする義務がある(828条本文)。もっとも、子の財産から生じた収益は親権者が収得する(828条ただし書は、親権者の収益権を定めた規定であると解されている)。
第三者が子に与えた財産の管理
第三者(祖父母など)が無償で子に財産を与える場合には、親権を行使する父または母に管理させない意思を表示することができる。その結果、父母ともに管理権を有しない場合には、管理者を指定または選任する(830条)。
代理権・同意権
財産行為の代表(代理)と同意
親権者は、子の法定代理人として、財産上の法律行為について子を代表(包括的に代理すること)する(824条)*。
* 子の行為を目的とする債務を生じる場合には、本人の同意を得なければならない(824条ただし書)。なお、親権者は、未成年者に代わって労働契約を締結することはできない(労働基準法58条)。
また、子の行為能力は制限され、子が単独で有効に行為するには親権者の同意が必要となる(5条)。
父母が共同で親権を行使する場合には、代理行為や同意も共同で行う。父母の一方が共同の名義で代理行為または同意をしたときは、他の一方の意思に反したときであっても有効である。ただし、相手方が悪意であったときは、この限りでない(825条)。
身分行為の代理
身分上の行為については、本人の自己決定を尊重すべきであるから、原則として代理は認められない。
例外的に、身分上の行為についても代理が認められる場合がある(認知―787条、縁組―797条、離縁―811条・815条、氏の変更―791条など)。
親権の制限と辞任
親権制限制度
親権喪失
虐待や悪意の遺棄(いわゆるネグレクト)など、父または母による親権の行使が著しく困難または不適当であることにより子の利益を著しく害するときは、家庭裁判所は一定の者(子・その親族・未成年後見人・未成年後見監督人・検察官)の請求によって親権喪失の審判をすることができる(834条本文)。ただし、2年以内にその原因が消滅する見込みがあるときを除く(同条ただし書)。
親権停止
父または母による親権の行使が困難または不適当であることにより子の利益を害するときは、家庭裁判所は一定の者の請求によって親権停止の審判をすることができる(834条の2第1項)。親権停止の期間は、2年を超えることができない(同条2項)。
管理権喪失
父または母による管理権の行使が困難または不適当であることにより子の利益を害するときは、家庭裁判所は一定の者の請求によっ管理権喪失の審判をすることができる(835条)。
親権制限の効果と審判の取消し
親権喪失・親権停止または管理権喪失の審判の結果、親権または管理権を行使する者がいなくなったときは、未成年後見が開始する。
親権喪失・親権停止または管理権喪失の審判の原因が消滅したときは、家庭裁判所は一定の者(本人・その親族)の請求*によってそれらの審判を取り消すことができる(836条)。
* 親権喪失・親権停止・管理権喪失の審判の請求や、これらの審判の取消しの請求は、児童相談所長も行うことができる(児童福祉法33条の7)。
親権を喪失しても、扶養関係や相続関係に影響はない。
親権・管理権の辞任
親権者は、やむを得ない事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て、親権または管理権を辞することができる(家庭裁判所の許可を得て回復することができる。837条)。
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