法人の基礎

民法総則法人

法人とは何か

社会に存在するさまざまな団体のうち、法によって法人格(権利能力)を認められた団体法人(ほうじん)といいます。

団体を権利義務の主体として認めることによって、団体の名前で取引することが可能になります*。

* 法人格のない団体であっても、団体名義で銀行口座を開設することや訴訟上の当事者(原告・被告)となること(民事訴訟法29条)などは可能です。しかし、不動産登記のように団体名義で行うことが認められない行為もあります(最判昭47.6.2)。

また、団体の財産をその構成員の個人財産から分離独立して団体自身に帰属させることによって、団体は個々の構成員の債務についてその責任を負わなくてすむようになります*。

* 債務者の全財産が強制執行の対象となるので、団体の財産が個々の構成員に帰属したままでは、構成員の債権者によってそれを差し押さえられるおそれがあります。

法人の分類

社団法人と財団法人

法人の実体は、人の集団または財産の集合体を基礎とする団体です。

人の集団(社団)を基礎とする法人社団法人(しゃだんほうじん)といい、財産の集合体(財団)を基礎とする法人財団法人(ざいだんほうじん)といいます。

社団法人にはその構成員である社員*が存在しますが、財団法人には構成員が存在しません。

* 日常用語としての「社員」は会社の従業員を指しますが、法律用語としての社員は法人という団体の構成員を指します。

社団法人の例として一般社団法人会社があり、財団法人の例として一般財団法人学校法人があります。

営利法人と非営利法人

団体が事業活動によって得た経済的利益をその構成員に分配すること営利(えいり)といいます。

営利を事業目的とする法人営利法人(えいりほうじん)といい、営利を事業目的としない法人非営利法人(ひえいりほうじん)といいます*。

* 非営利法人であっても、収益事業を営むことは可能です。

営利法人の代表例は会社です。非営利法人の例としては、一般社団法人NPO法人などがあります。

なお、財団法人は、利益を分配する構成員がいないので、必然的に非営利法人となります。

法人の成立

法人は、法律の規定によらなければ成立しません(33条1項)。

つまり、法人を設立するためにはそれを認める法律上の根拠(設立根拠法)が必要であって(法人法定主義)、法人とするのに適当な実体が存在すれば当然に法人格が認められるというわけではありません*。

* スイス民法のように、後者の立法主義(自由設立主義)を採用する国もあります。

現在、各種の特別法によってさまざまな種類の法人が認められています。(以下、カッコ内は設立根拠法を示しています。)

  • 会社(会社法)
  • 一般社団法人・一般財団法人(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律)
  • NPO法人(特定非営利活動促進法)
  • 学校法人(私立学校法)
  • 宗教法人(宗教法人法)
  • 医療法人(医療法)
  • 社会福祉法人(社会福祉法)
  • 農業協同組合・生活協同組合・信用金庫等(農業協同組合法・消費生活協同組合法・信用金庫法等)
  • 労働組合(労働組合法)
  • 健康保険組合(健康保険法)
  • 弁護士法人・監査法人・税理士法人等(弁護士法・公認会計士法・税理士法等)
  • 管理組合法人(建物の区分所有等に関する法律)
  • 相続財産法人(民法951条)
  • 認可地縁にんかちえん団体(地方自治法260条の2)

法人は、その種類によって設立方式が異なります(次表)。

特許主義特別な立法が必要。例、日本銀行、日本放送協会、日本年金機構
認可主義行政庁の認可が必要。例、各種協同組合、学校法人、医療法人、社会福祉法人
認証主義所轄庁の認証が必要。例、宗教法人、NPO法人
準則じゅんそく主義法定の手続きに準拠することによって、当然に法人格が付与される。例、一般社団法人・一般財団法人、会社、労働組合
当然設立主義法律上当然に法人となる。例、国、地方公共団体、相続財産法人

法人の機関

法人としての意思決定や行為を行うことができる地位にある自然人または会議体を法人の機関(きかん)といいます。

法人の機関の構成は、法人の種類によって異なります。また、機関の種類によっては、設置するかどうかを法人の自治に委ねているものもあります。

一般社団法人を例にとると、社員全員によって構成される意思決定機関である社員総会と、その意思決定にもとづき業務を執行する機関である理事は必ず設置されます。

その上さらに、意思決定過程を合理化するための機関である理事会や、監査機関である監事会計監査人を設置するかどうかを内部規則(定款)によって定めることができます。

法人の能力

法人はその性質上、生命・肉体を基礎とする権利(身分上の権利や労働者の地位など)を享有することができず(性質による制限)、また、法令によって権利能力が制限されることがあります(法令による制限)。

さらに、法人の活動は、定款その他の基本約款やっかん*で定められた目的の範囲内に制限されます(目的による制限、34条⁑)。

* 団体の根本規則のこと。法人は、定款などの基本約款においてその事業内容である目的を定めます。
⁑ 判例は、本条を法人の権利能力を制限した規定であると解します。これに対して、代表者の代理権(代表権)を制限したものと解する学説もあります。

目的の範囲の判断

ある行為が法人の目的の範囲内かどうかの判断は、営利法人と非営利法人とで異なります。

営利法人(会社)は、その事業が利益追求のための手段にすぎないので、目的による制限を極力認めるべきではありません。判例も、営利法人の目的の範囲を広く解しています*。

* 最大判昭45.6.24は、政党への政治資金の寄付を会社の目的の範囲内の行為であると判示しました。

非営利法人は、政策的観点から法によってその事業・業務が限定されているので、目的の範囲の判断も比較的厳格に行う必要があります。

たとえば、協同組合がした員外貸付*を目的の範囲外の行為であるとして無効とした判例があります(農業協同組合に関する最判昭41.4.26、労働金庫に関する最判昭44.7.4)。

* 組合員・会員以外の者に対する金銭の貸付け。協同組合の業務に含まれない。

また、強制加入団体である税理士会がした政治資金を寄付する目的で会員から特別会費を徴収する旨の決議を無効であるとした判例もあります(最判平8.3.19)。

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