婚姻外関係(婚約・内縁)

夫婦親族法

結婚をする前にその約束をしたり、あるいは挙式しても婚姻届けをしなかったりした場合を規律する条文は、民法にはない。しかし、婚姻外の男女関係をまったく無視して法的な救済をしないわけにはいかず、判例はこれらの関係をある程度保護している。

婚約

婚約とは、男女が将来結婚しようと約束することをいう。

結納などの儀式がなくても、当事者間の合意だけで成立する。婚約時に婚姻の要件(婚姻適齢や再婚禁止期間)を満たしていなくても、婚姻時に満たせばよい(近親婚となる場合は無効となる)。意思能力さえあれば、未成年者であっても婚約をすることができる。

婚約は婚姻の約束とはいっても、相手方に婚姻を強制することはできない

正当な理由なく婚約を解消(不当破棄)された場合に、他方がその受けた精神的・財産的損害を賠償請求することができるだけである(判例・通説は、債務不履行として構成する)。

結納

結納は、婚約に際して金品を相手側に贈る慣習である。

これは、婚約の成立を確証するとともに、婚姻が成立した場合に当事者と両家間の情誼を厚くする目的でなされる贈与である(最判昭39.9.4)。(通説は、婚姻不成立を解除条件とする贈与とする。)

したがって、婚約が解消されてしまうと目的不到達による不当利得となり、(贈与者側が有責でないかぎり)受け取った側にその返還義務が生じる。いったん婚姻(事実上の婚姻を含む)がなされて結納の目的が達成されれば、その後に離婚しても返還義務は生じない。

内縁とは

内縁とは、婚姻の届出を欠くが、事実上の夫婦共同生活をしている関係をいう。

内縁に関する規定は民法にはない。しかし、夫婦としての実体がある以上、その法的保護が問題となる。

古くは、内縁を将来婚姻することを目的とする契約(婚姻予約)として捉えていたこともある(大判大4.1.26)。しかし現在では、内縁は婚姻に準じる関係として捉えられていて、婚姻同様の効果が認められている(最判昭33.4.11、準婚理論)。

内縁の発生原因

かつては、挙式をしてもすぐに婚姻届をしない慣行や「家」制度のもとでの法律上の制約があったためにやむをえず内縁関係になることがあった。そして、そのような事情による内縁は、できるだけ婚姻に準じて保護すべきであると考えられた。

現在でも、婚姻の要件を欠くために届出ができない事実上の夫婦が存在する。たとえば、法律上の配偶者のある者が他の異性と内縁関係にある場合である(重婚的内縁という)。これを公序良俗違反とする見解もあるが、法律婚が破綻しているときには婚姻に準じる保護を与える傾向にある。また、近親婚の禁止に抵触する内縁関係もその保護のあり方が問題となる。

最近では、夫婦別姓を貫くためなど、多様なライフスタイルの選択の結果として婚姻の届出をしない男女も増えてきている。このような婚姻外関係は、事実婚と呼んで従来型の内縁と区別される。

内縁の効果

前述したように、内縁は婚姻に準じて保護される。

準婚的効果

婚姻の効果のうちで夫婦共同生活の実体にもとづくもの――同居協力扶助の義務(752条)、婚姻費用の分担義務(760条)、日常家事債務の連帯責任(761条)、貞操義務(770条1項)などは、内縁にも認められる。

しかし、内縁は法律婚ではないので、婚姻の届出を前提とする効果――夫婦同氏(750条)、嫡出推定(772条1項)、子の準正(789条1項)、配偶者相続権(890条)などは認められない。

第三者による侵害からの保護

第三者が、内縁夫婦の一方に対して生命・身体を侵害したり、姦通したり、内縁に不当に干渉して破綻させた場合(最判昭38.2.1)には、不法行為となる。

内縁の解消

内縁関係は、夫婦の一方の死亡や、夫婦間の合意または一方的な破棄によって解消する。

死亡解消の効果

内縁の夫婦には、他方を相続する権利がない。離婚の際の財産分与規定(768条)を類推適用することも否定されている(最決平12.3.10)。

もっとも、居住する建物の所有権または借家権が死亡した内縁者の相続人に承継された場合であっても、生存している内縁配偶者の居住権は保護される(最判昭39.10.13、最判昭42.2.21など)。

また、社会保障法では、遺族年金などの支給に関して内縁配偶者にも遺族としての受給資格が認められている

死亡した内縁者に相続人がいない場合、生存している他方は特別縁故者として相続財産分与を受けることができ(958条の3)、借家権を承継することもできる(借地借家法36条)。

離別解消の効果

内縁の夫婦が離別によって内縁関係を解消する際、財産分与規定(768条)が類推適用される。

内縁解消に対して責任がある者は、損害賠償責任を負う。必ずしも破棄者に責任があるとはかぎらない(最判昭27.10.21)。第三者が不当に干渉して内縁が破綻した場合、第三者がその責任を負う(最判昭38.2.1)。

コメント

タイトルとURLをコピーしました