実子

親子親族法

実親子関係

実親子関係(実子)は、自然の血縁にもとづく親子関係である。

嫡出子と嫡出でない子

実子には、婚姻中の父母から生まれた嫡出子(嫡出である子、婚内子)と、婚姻していない父母から生まれた嫡出でない子(非嫡出子、婚外子)とがある。

嫡出子は出生によって当然に法律上の父子関係が発生するが、嫡出でない子は認知によって初めて法律上の父子関係が発生するという違いがある。

なお、嫡出でない子も、その父母の婚姻によって嫡出子となる(準正嫡出子)。

実父子関係の決定

実親子関係は血縁を基礎とするが、この点で問題となるのが子の法律上の父(実父)をどのようにして定めるかである。子の母が誰であるかは分娩の事実によって明らかであるが、父についてはそのような外形上明白な事実が存在しないからである。

この問題について法は、婚姻認知という血縁の存在を推認させる事実を手がかりとして、法律上の父子関係が決定するものとした。

つまり、母が婚姻中に懐胎したときはその夫が子の法律上の父となり、母が婚姻していないときは自分の子であると認めた(認知した)者が子の法律上の父となる。

嫡出子

嫡出子とは、婚姻関係にある男女(夫婦)の間で懐胎または出生した子をいう。

嫡出子は、嫡出推定(772条)を受けるか否かによって、推定を受ける嫡出子(推定される嫡出子)推定を受けない嫡出子(推定されない嫡出子)とに分けられる。

推定を受ける嫡出子

嫡出推定(772条)

父子関係には、母子関係における分娩のような、それを客観的に示すことができる事実がない。

そこで民法は、「妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する」(772条1項)こととした。これを嫡出推定(父性推定)という。

さらに、懐胎の時期についても、婚姻成立の日から200日後、または、婚姻の解消もしくは取消しの日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定している(同条2項)*。

* 婚姻解消・取消しの日から300日以内に出生した場合であっても、懐胎時期が婚姻解消・取消しの後であるとする医師の証明(「懐胎時期に関する証明書」)があるときには、772条2項は適用されず、子の父を前婚の夫としない出生の届出をすることができる。

嫡出否認の訴え

嫡出推定を受ける子について、子と夫との父子関係を否定するためには、嫡出否認の訴えによることを要する(775条)。

(1) 否認権者と訴えの相手方

訴えを提起することができる者(否認権者)は、原則として夫だけにかぎられる(774条)。血縁上の父、妻、子は訴えを提起することができない。訴えの相手方は、子または親権を行う母である(775条前段)。

否認権者を夫のみとしているのは、第三者の干渉を防くことで家庭の平和を守ることを目的としている。しかしその反面、真実(血縁)に反する父子関係が法律上確定する余地がある。

(2) 期間制限

嫡出否認の訴えは、夫が子の出生を知った時から1年以内に提起しなければならない(777条、夫が成年被後見人であるときは778条)。父子関係を早期に安定させる趣旨である。

この期間内に夫による否認権の行使(訴え)がなされなかった場合、夫婦の嫡出子としての身分が確定する。

(3) 嫡出性の承認

夫が子の出生後にその嫡出性を承認すれば、否認権を失う(776条)。もっとも、命名や出生届はこれに当たらない。

推定の及ばない子

嫡出推定(772条)は夫婦生活が正常に営まれていることを前提とするものであるから、その前提を明らかに欠く場合にまで推定を及ぼして真実に反する父子関係を確定させるべきではない。

したがって、形式的には嫡出推定を受ける子であっても、夫による懐胎の可能性がないことが客観的に明らかである場合には、772条の推定が排除されるものと解されている(事実上の離婚について最判昭44.5.29)。そのような子を推定の及ばない子などと呼ぶ。

たとえば、長期間の別居(事実上の離婚)、夫の行方不明、海外滞在など、夫の子でないことが外観上明白である場合、772条の推定は排除される。さらに、夫の生殖不能や血液型の背馳など血縁関係がないことをも推定排除事由に含めるかについては議論がある。

推定の及ばない子は、その母の夫による嫡出否認がない場合であっても、血縁上の父に対して認知の訴えを提起することができる。また、推定の及ばない子と夫との父子関係を直接否定するには、親子関係不存在確認の訴えによる。

父を定める訴え

前婚と後婚の嫡出推定が重複することがないように、婚姻の要件として再婚禁止期間が定められているが(733条)、それに違反する婚姻届が誤って受理される可能性もある。

その場合に再婚禁止期間内に出産したことによって子の父が定まらないときには、裁判所がその子の父を定める(773条)。母親が重婚状態で出産したときも同様である。

推定を受けない嫡出子

婚姻成立の日から200日以内に生まれた子は、夫婦間の子であっても嫡出推定を受けない。しかし、そのような子であっても、夫婦が内縁中に懐胎した子であれば出生と同時に嫡出子の身分を取得する(大連判昭15.1.23)。

戸籍実務上は、(内縁関係の有無の審査ができないので)婚姻の届出後に生まれた子はすべて嫡出子として届け出ることができる。このような子を推定を受けない嫡出子という。

推定を受けない嫡出子の父子関係の否定は、親子関係不存在確認の訴えによる(最判昭41.2.15)。

親子関係存否確認の訴え

戸籍上の親子関係が真実に反する場合に、それを否定して戸籍を訂正するための手段として親子関係存否確認の訴えがある(人事訴訟法)。利害関係人は、誰でも、いつでも、この訴えを提起することができる。

推定を受けない嫡出子や推定の及ばない子について父子関係を否定する場合や、母子関係の存在を確認する場合などは、この訴えによる。

嫡出でない子

嫡出でない子(非嫡出子)とは、婚姻関係にない父母の間で(婚姻外で)生まれた子をいう。

認知による父子関係の発生

嫡出でない子と父との法律上の親子関係は、当然には発生しない。父の側から自発的に自分の子であると認めるか(任意認知)、子の側から訴えを提起して勝訴すること(強制認知)によってはじめて発生する。

このように、嫡出でない父子関係の発生は当事者の意思に委ねられている。

母子関係の発生

母子関係は、分娩の事実によって当然に発生する(最判昭37.4.27)。条文上は、母の認知も想定されている。しかし、母子関係は分娩の事実によって確定できるため、母の認知は不要である。

任意認知

嫡出でない子をその父が自分の子であると自発的に認める行為(779条)を任意認知という。任意認知は、認知の届出によってするほか(781条1項)、遺言によってすることもできる(同条2項)。

認知の能力

認知をするには意思能力があればよく、父が未成年者または成年被後見人であるときでも法定代理人の同意を要しない(780条)。

任意認知の対象となる子

子が成年である場合、その子の承諾が必要である(782条)。

胎児を認知することもできるが、その母の承諾を要する(783条1項)。

死亡した子でも、その直系卑属がある場合にかぎり認知することができるが、直系卑属が成年者であるときはその承諾を要する(同条2項)。

任意認知は、子がすでに戸籍上他人の子である場合にはすることができない。認知の前に、各種訴えによって戸籍上の父子関係を否定しなければならない。

任意認知の無効・取消し

(1) 認知の無効

意思能力がない、他人が勝手に届け出たなど、認知者(父)の意思にもとづかない認知の届出は、たとえ認知者と被認知者(子)との間に血縁上の父子関係があっても、無効となる(最判昭52.2.14)。

血縁上の父でない者がした真実に反する認知は、無効である。この場合、子その他の利害関係人は認知に対して反対の事実を主張することができる(786条)。

(2) 認知の取消し

いったんなされた認知の届出を、その受理後に撤回することはできない。詐欺・強迫による認知であっても取り消すことができない(785条、通説)。

強制認知

子の側からは、血縁上の父を相手方として認知の訴えを提起することができる(787条本文)*。認知判決がなされることによって、法律上の父子関係の存在が確定する。これを強制認知という。

* 認知の訴えの法的性質は、形成の訴えである(最判昭29.4.30、通説)。

訴えを提起することができる者

訴えの原告となりうる者は、*、その直系卑属(子が死亡している場合)またはこれらの者の法定代理人である(787条本文)。胎児は、原告となることができない。

*戸籍上他人の嫡出子となっていても、嫡出推定を受けない場合は、戸籍訂正をしないまま、血縁上の父を相手に訴えを提起することができる。

期間制限

父の生存中であれば、いつでも提訴することができる。父が死亡した場合でも、死亡の日から3年を経過するまでは(787条ただし書)*、検察官を相手方として提訴することができる(死後認知)。

* 772条が類推適用される内縁懐胎子(次述)にも、出訴期間の制限が適用される(最判昭44.11.27)。

父子関係の証明

子の母が内縁関係にあった場合には(内縁懐胎子)、772条が類推適用され、子の父は内縁の夫であると事実上推定される(最判昭29.1.21)。

子の母が内縁関係になかった場合には、原告(子)の側が、子の懐胎可能期間に母と男性(被告)との性交渉があったなどの間接事実によって、原告と被告との父子関係を証明しなければならない。もっとも、母が他の男性と関係をもたなかったことの証明は不要である(最判昭31.9.13)。

認知請求権の放棄

認知請求権の放棄はできず(最判昭37.4.10)、その対価として金銭を支払う契約は無効である。

認知の効力

認知の遡及効

認知の届出または認知判決がなされることによって、子の出生の時にまでさかのぼって嫡出でない父子関係が発生する(784条本文)。ただし、第三者の既得権を害することはできない(同条ただし書)。相続開始後の認知と遺産分割との調整について910条参照。

認知の効果

認知があると、子と父の双方の戸籍にその旨の記載がなされる。子の氏や親権者は母親のままであるが、後で父親に変更する余地もある(791条1項、819条4項6項)。

また、離婚の場合と同様に、子の監護に関する事項を決定する(788条→766条)。

準正

嫡出でない子は、その父母の婚姻によって嫡出子の身分を取得することができる。これを準正という。子の利益を図り、父母の婚姻を奨励する趣旨である。

準正の種類

準正には、認知後に父母が婚姻する場合(婚姻準正、789条1項)と、父母の婚姻後に子が認知される場合(認知準正、同条2項)とがある。

準正の効果

いずれの場合も、子は、父母の婚姻時から嫡出子の身分を取得する(789条2項は「認知の時から」と規定しているが、認知の効果はさかのぼる)。

準正によって嫡出子となった子(準正嫡出子)は、父母の氏を称し、父母の共同親権に復する。

死後準正

準正は、子がすでに死亡している場合でも生じる(789条3項)。

人工生殖(生殖補助医療)による子

自然の生殖行為ではなく、人工生殖(生殖補助医療)によって妊娠・出産することも多い。人工生殖には、次のようなものがある。

  1. 人工授精……男性の精液を器具を用いて子宮腔に直接注入する方法。
    • 配偶者間人工授精(AIH)……夫の精液を用いる場合
    • 非配偶者間人工授精(AID)……提供者(ドナー)の精液を用いる場合。
  2. 体外受精……卵子と精子を体外で受精させ、受精卵(胚)を子宮内に移植する方法。

父の決定

治療に同意した夫が子の法律上の父となる。精子・受精卵の提供を受けていた場合も同様である。

精子提供者との間に法律上の親子関係は発生しない。提供者は、認知をすることができない。

母の決定

分娩した女性が子の法律上の母となる。卵子・受精卵の提供を受けていた場合も同様である。

妻以外の女性に、(人工授精または体外受精による)夫婦の子の妊娠と出産を依頼しても(代理母契約)、生まれた子の母親は妻ではなく分娩した代理母になる。

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