成年後見制度

親権・後見親族法

成年後見制度とは

成年後見制度の基本理念

成年後見制度は、認知症、知的障害、精神障害などの理由で判断能力が不十分である者を保護するために、その者(本人)の生活を支援する者を選任する制度である。

成年後見制度は、本人保護という従来からの理念と、自己決定の尊重(本人に残された能力を活用してできるかぎり本人の意思を尊重するという理念)やノーマライゼーション(障害のある者も健常者も等しく共に生活できるような社会にすべきであるという理念)という新しい理念との調和を目指している。

なお、成年後見制度においては、行為能力の制限は本人保護のあり方の一つにすぎず、必ずしも本人の行為能力が制限されるとはかぎらない(法定後見における補助、任意後見)。

法定後見制度と任意後見制度

成年後見制度は、法定後見制度任意後見制度とに大別される。前者は裁判所が職権で保護者を選任する制度であり、後者は当事者が契約で保護者を選ぶ制度である。

自己決定の尊重という観点から、本人に任意後見制度を利用する意思があるかぎり、任意後見による保護が法定後見に優先するのが原則である(任意後見契約に関する法律10条1項・4条2項参照)。これを任意後見制度優先の原則という。

法定後見制度は、任意後見制度を補完する役割を果たす制度として位置づけられている(法定後見制度の補充性)。

法定後見制度

法定後見の3類型

法定後見には、本人(保護の対象者)の判断能力の程度に応じて、後見・保佐・補助の3種類が用意されている。

それぞれの保護者の職務権限の範囲は、民法または家庭裁判所の審判によって定められる*。後見→保佐→補助の順に本人保護の必要性が大きく、それゆえ保護者の権限の範囲も広くなる。

*本人の自己決定を尊重するため、一定の審判(補助開始の審判、補助における同意権付与の審判・代理権付与の審判、保佐における代理権付与の審判)を行う場合には、本人自らの請求または同意が必要とされている。

後見保佐補助
対象者精神上の障害により事理弁識能力を欠く常況にある者精神上の障害により事理弁識能力が著しく不十分な者精神上の障害により事理弁識能力が不十分な者
本人成年被後見人被保佐人被補助人
保護者成年後見人保佐人補助人
保護者の権限代理権・取消権同意権・取消権+代理権(代理権付与の審判)同意権・取消権(同意権付与の審判)または代理権(代理権付与の審判)

後見の開始と機関の選任

後見開始の審判

成年後見は、家庭裁判所の審判(後見開始の審判)によって開始される(838条2号)。

後見開始の審判は、「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者」について、一定の者からの請求(手続法では「申立て」)があったときに行われる(7条)*。

*後見に関する審判の申立ては、市町村長もすることができる(老人福祉法32条等)。

後見開始の審判を受けた者は成年被後見人となり、その保護者(後見事務の執行機関)として成年後見人が付けられる(8条)。

後見の機関(成年後見人・成年後見監督人)

家庭裁判所は、職権で、成年後見人を選任する(843条1項)。

また、家庭裁判所は、必要があると認めるときは、請求によりまたは職権で、後見人の監督機関である後見監督人(成年後見監督人)を選任する(849条)。後見人の設置は必須であるが、後見監督人の設置は任意である。

成年後見人・成年後見監督人いずれも、複数人が選任されることや(859条の2・852条)、法人が選任されることもある(843条4項・852条)。

いずれの機関も、辞任・解任については同一の扱いがなされる(844条・846条・852条)。欠格事由もほぼ同じであるが(847条・852条)、後見人の場合と違い、後見監督人には一定の近親者が就くことができない(850条)。

後見人と後見監督人は、その職務を行うに際して善管注意義務(644条)を負う(869条・852条)。

機関の報酬や費用は、被後見人の財産の中から拠出される(862条・861条2項・852条)。

後見の事務と監督

成年後見人の職務

成年後見人は、成年被後見人の生活、療養看護および財産管理に関する事務を行う。その際、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態および生活の状況に配慮する義務を負う(身上配慮義務、858条)。

財産に関する事務

後見人は、被後見人の財産を管理し、財産行為について被後見人を代表する(859条)。被後見人の財産上の利益の保護は、成年後見人の基本的任務である。

財産管理の適正を期するため、後見人は就職してすぐに被後見人の財産を調査し、財産目録を作成する(853条1項)。

成年被後見人の居住用不動産を処分するためには、家庭裁判所の許可を要する(859条の3)。成年被後見人の生活に重大な影響を及ぼすおそれがあるからである。

後見人・被後見人間の利益相反行為についても、親子の場合と同様の制限がある(860条本文・826条)。もっとも、後見監督人がある場合は、後見監督人が被後見人を代表するので(851条4号)、特別代理人の選任は不要である(860条ただし書)。

後見事務の監督

後見監督人は、後見人の事務を監督する(851条1号・863条1項)。また、家庭裁判所も監督機能を営む(863条)。

後見監督人は、後見人が一定の行為(営業、13条1項列挙の行為)を代理することについて同意権を有する(864条・865条)。

後見の終了

終了原因

後見は、被後見人の死亡(失踪宣告)や、後見開始の審判の取消し(10条)があったときに終了する(絶対的終了)。

また、後見人の死亡(解散・失踪宣告)や、資格喪失(辞任・解任・欠格事由の発生)があったときには、その後見人の任務だけが終了する(相対的終了)。

後見の計算

後見人の任務が終了したとき、後見人(その相続人)はその管理の計算を行う義務がある(870条)。

保佐

保佐は、「精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者」について保佐開始の審判があることによって開始する(11条・876条)。

保佐開始の審判を受けた者は被保佐人となり、その保護者(保佐事務の執行機関)として保佐人が付けられる(12条)。

家庭裁判所は職権で保佐人を選任し(876条の2第1項)、また、必要があると認めるときは保佐監督人を選任する(876条の3第1項)。

保佐人の権限は、一定の行為について被保佐人に同意を与えること(同意のない行為を取り消すこと)である(13条)。また、家庭裁判所は、一定の者の請求によって、特定の行為について保佐人に代理権を付与する旨の審判をすることができる(876条の4第1項)。

保佐人は、後見人と同様に、身上配慮義務・善管注意義務を負い(876条の5)、利益相反行為が制限され(876条の2第3項)、保佐監督人の監督に服する。その他の事項については、財産管理・代表(859条)に関連するものを除いて後見に準ずる*。

*居住用不動産の処分についての許可(859条の3)は準用がある。

補助

補助は、「精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である者」について補助開始の審判があることによって開始する(15条・876条の6)。

補助開始の審判を受けた者は被補助人となり、その保護者(補助事務の執行機関)として補助人が付けられる(16条)。

補助人の権限は固定的ではなく、家庭裁判所の審判によって特定行為についての同意権または代理権が付与される(876条の9第1項)。

補助人の選任(876条の7第1項)や身上配慮義務・善管注意義務(876条の10第1項)、利益相反行為の制限(876条の7第3項)、補助監督人などは、保佐と同様である。

制限行為能力者ができない職業・営業

次の職業・営業では、制限行為能力者(とくに成年被後見人および被保佐人)であることが欠格事由とされている。

1. 専門的資格を必要とする職業:弁護士、司法書士、行政書士、公認会計士、税理士、弁理士、医師、歯科医師、薬剤師、社会福祉士、教員など。

2. 免許・登録を要する営業:風俗営業、古物営業、警備業、一般労働者派遣業、薬局など。

3. 株式会社の取締役や監査役、一般社団法人等の役員。

なお、制限行為能力者になっても選挙権・被選挙権を有し、運転免許を制限されることもない。

任意後見制度

以下、「任意後見契約に関する法律」を単に「法」と略する。

任意後見契約の締結

任意後見契約とは

任意後見は、本人が、将来、自己の判断能力が低下した場合に備えて、あらかじめ本人が選んだ者に自己の後見事務についての代理権を与える契約を結ぶものである*。

* 本人に認知症その他精神的な病気の疑いがある場合であっても、契約締結の時点において意思能力を有するかぎり、任意後見契約を締結することは可能である。

この契約を任意後見契約と呼び、本人と任意後見契約を締結した者(契約相手方)を任意後見受任者と呼ぶ(法2条参照)。任意後見受任者を誰にするかは、本人が自由に選ぶことができる。

任意後見契約の特徴

任意後見契約は、委任契約(民法643条以下)の一種である。一般の委任契約とは異なり、任意後見契約は公正証書によることを要する(法3条)。

また、任意後見契約は、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時にその効力を生じる。それによって、任意後見受任者は任意後見人になる(法2条)。

通常の委任契約ではなく任意後見契約によって受任者に権限を与えることの意味は、公的機関が関与するしくみによって受任者(任意後見人)の監督がなされるという点にある。

任意後見監督人の選任

本人の事理弁識能力(判断能力)が不十分な状況になったとき、一定の者(本人、配偶者、4親等内の親族、任意後見受任者)の請求により*、家庭裁判所は任意後見監督人を選任する(法4条1項)⁑。

*本人以外の者の請求による場合は、本人が意思を表示できないときを除き、本人の同意が必要である(同条3項)。

⁑ 任意後見受任者に任意後見人となるにふさわしくない事由(法4条1項3号)がある場合には、任意後見監督人選任の請求が却下され、その結果、任意後見契約は効力を生じない。

任意後見監督人

任意後見監督人の基本的な職務は、任意後見人の事務を監督したり、家庭裁判所に対して任意後見人の事務に関する報告を行ったりすることである(法7条)。

任意後見人

任意後見人の職務(代理権)の範囲は、任意後見契約によって自由に定められる。

任意後見人は、その職務を行うに当たり、本人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態および生活の状況に配慮しなければならない(身上配慮義務、法6条)。

任意後見人にその任務に適しない事由があるときは、家庭裁判所は、一定の者の請求をまって任意後見人を解任することができる(法8条)。

任意後見制度優先の原則

任意後見制度の利用は、本人の選択による。したがって、本人の意思を尊重するという観点から、任意後見契約が登記されている場合には、原則として後見開始の審判等をすることはできない。

例外的に、本人の利益のため特に必要があると認められるときにかぎり、後見開始の審判等をすることができる(法10条1項)。

任意後見の終了

任意後見監督人選任前は当事者双方がいつでも任意後見契約を解除できるが、公証人の認証を受けた書面によることを要する。任意後見監督人選任後の解除は、家庭裁判所の許可が必要である(法9条)。

後見開始の審判等が任意後見監督人の選任後になされた場合、任意後見契約は終了する(法10条3項)。

成年後見登記制度

成年後見に関する事項は、本人のプライバシー保護のために戸籍には記載されない。公的な記録・証明のための制度が別に用意されている。

成年後見の登記

法定後見の開始の審判または任意後見契約の公正証書作成がなされると、家庭裁判所または公証人の嘱託により、法務局の後見登記等ファイルに記録される形で登記される(後見登記等に関する法律4条・5条)。

登記記録の開示

登記記録の開示は、本人等の請求により、登記事項証明書(登記されていない場合は「登記されていないことの証明書」)を交付することによってなされる(同法10条)。

取引の相手方は、本人側に対して証明書の呈示を要求することによって、本人が行為能力を有する者であるかどうか、あるいは代理人と称する者が代理権限を有するかどうかを確認することができる。

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